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続いて訪れたのは、〝江戸筆〟の伝統工芸士、筆工房亀井の亀井正文さんの工房です。
〝江戸筆〟も銀器と同じく、江戸時代になって発達した歴史をもっています。それまでの筆は武士や貴族、僧侶などが和歌や文書をしたため、絵を描くのに使う道具でしたが、政治経済の中心が江戸に移り、商人を中心とする文化が隆盛してきたことで庶民にも〝読み書きそろばん〟が普及。一般の人々の普段使いの筆として作られるようになったのがこの〝江戸筆〟です。
一方で、江戸時代を通して筆の製造技術を受け継いだ職人さんたちが、書道や絵画に用いられる高級筆の技術の継承を図っています。亀井さんもまさにそのお一人です。
亀井さんが作る筆は大小1000種類以上。用途によって、穂先に用いる毛の素材や製法などがまったく異なるのだそうで、馬のたてがみや中国しかいない山羊の胸の毛など珍しい材料を使うことも。
キモ画伯にとっても、筆は毎日使う道具のひとつ。たいていは油彩用の筆をお使いですが、「ヤシの葉の細かい線や人物の目もとを描くときには日本画用の先の細い筆を使っているんですよ」と、いろいろな筆を興味深そうに触っています。 「試し書きをしてみませんか」という亀井さんの一言で用意されたのは、水を含むと黒く色が変わる〝水紙〟という特殊な用紙。ふだんから筆を使い慣れている画伯は、早速お得意のイルカやヤシの葉をすいすいと描いていきます。
「韓国にいた子供時代、水墨画をしばらく習っていたんですよ」とおっしゃられるだけあって、書道用や日本画用の筆もすぐ使いこなしてしまいます。
いよいよ筆づくりに挑戦です。
といっても、1本の筆を仕上げるには熟練の技が必要なので、今回はまず、穂先に使う毛をきれいに整える〝毛揃え〟という工程の一部を少しだけ経験。金属の箱状の型に筆1本分の毛を入れ、軽くトントンと叩きながらまとめていくのですが、なかなか思うようにはいきません。
続いて、仕上がった筆の穂先を、海藻からとったフノリという糊で細く形を整えて固めていく工程にチャレンジです。お手本を示してくださる亀井さんは、右肩部分から糸を垂らしてフノリをつけた筆の穂先に巻き付け、糸に沿って筆をくるくると回しながら穂先を細くまとめていきますが、画伯が同じようにしても糊がすぐ固まってしまい、なかなか進みません。
このあと、筆の根元に糸を巻き付けて完成。
決して「大成功!」とはいえませんでしたが、画家という仕事に欠かすことのできない筆づくりの実際をご覧になって、キモ画伯も感慨無量の様子。「ふだん筆を使っている人たちも、こんなに複雑で手間のかかる工程を経て筆ができているとは思っていないでしょうね。これから新たに筆を買うときは、ちゃんと作り手に感謝の気持ちを捧げなくちゃいけませんね」とおっしゃていました。
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